マーシャル諸島共和国は11月26日、Stellarブロックチェーンを活用した全国規模ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)プログラム「ENRA(エンラ)」の配布を開始した。ステラ・ディベロップメント・ファウンデーションが12月16日に発表した内容によると、配布にはStellar(ステラ)上で発行されたデジタル主権債「USDM1」が活用され、銀行口座を持たない遠隔地の市民も含め、全国民が給付を受け取れる仕組みとなっている。ブロックチェーンを活用した全国規模UBIの実施は世界初の取り組みだ。
マーシャル諸島は約1,200の島々が200万平方キロメートルに散在し、地理的制約が深刻な経済課題となってきた。現金輸送は四半期に1度、船舶コンテナで行われるのみで、ATMや銀行支店は頻繁に現金が枯渇する。銀行は引き出し制限を課し、遠隔地の住民が小切手を換金するには高額な島間フライトが必要だった。
こうした状況を打開するため、政府は3つの配布チャネルを用意した。従来型の紙の小切手、銀行口座への直接振込、そしてブロックチェーンを活用したデジタルウォレット「Lomalo(ロマロ)」だ。ロマロはウォレット技術企業クロスミントが開発し、複雑なシードフレーズ管理を不要とする使いやすい設計で、スマートフォンから数秒で送金を受け取れる。
配布される「USDM1」は、米短期国債で1対1完全担保されたデジタル主権債だ。ニューヨーク州法に基づく信託契約で発行され、米国の信託会社が担保を分別管理する。1989年の「ブレイディ債」の枠組みを踏襲し、主権債としての法的性質を保ちながら、ステラネットワーク上で即時決済と透明性を実現した。ステラでの送金コストは1セント未満で、決済は数秒以内に完了する。
ENRAの財源は「マーシャル諸島共和国国民信託基金(Compact Trust Fund)」から拠出される。この信託基金は、米国との自由連合盟約に基づく核実験補償金、支援金、米軍施設の土地使用料などを原資とし、2025年半ばに総資産は13億ドル(約2,011億円)を超えた。
配布は四半期ごとに実施され、今後10年以上継続される見込みだ。信託基金の年間投資リターンの最大4%をUBIに充当する持続可能な設計で、長期的な財政規律を維持しながら全市民に定期的な給付を提供する。
USDM1の発行には、国際法律事務所クリアリー・ゴットリーブ、税務アドバイザリー企業アンダーセン、米信託会社スーラス・トラスト・カンパニー、AML/コンプライアンス強化のガイドポスト・ソリューションズなどが参画した。ステラ・ディベロップメント・ファウンデーションは、国連開発計画(UNDP)、国際救助委員会(IRC)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との協力実績を持ち、新興国や人道支援分野でのブロックチェーン活用に強みを持つ。
マーシャル諸島のブロックチェーン活用UBIモデルは、地理的制約を抱える小国が最新技術を活用し、金融包摂と財政規律を両立させた先進事例として、国際的な注目を集めている。


