Web3・暗号資産メディア「NADA NEWS」を運営する当社N.Avenueは昨年12月、運営する法人会員制ビジネスコミュニティ「N.Avenue club」の企業会員らを対象にした年に一度の「Year End Party」を開催した。

 会場を訪れた片山さつき財務大臣のあいさつは既報の通りだが、本記事では「ステーブルコインで描く日本の輸出立国2.0──IP・食・観光で拓く新戦略」と題した第1部のスペシャルセッションの模様をお伝えする。

登壇したのは、衆議院議員でデジタル大臣政務官の川崎ひでと氏、データサイエンティストで慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏、国内初の日本円建てステーブルコインを発行するJPYC社代表取締役の岡部典孝氏。モデレーターは、シンガポール拠点のweb3ファンド「Emoote(エムート)」の共同創業者でリサーチャーとしても知られるcomugi氏が務めた。

万博の盛り上がりとJPYCの広がり

comugi氏は冒頭、2025年を象徴するトピックとして、4月から10月まで開催された大阪・関西万博と10月に発行が始まったJPYCを取り上げ、シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」のプロデューサーを務めた宮田氏に万博の振り返りを求めた。

宮田氏は、開催前は強い批判やネガティブな世論にさらされたものの、最終的には大屋根リングをはじめとする「フィジカルの力」と関西を中心とした熱狂が、前評判を覆す成功をもたらしたと総括。NFTなどのWeb3技術を取り入れた「Better Co-Being」については、「いのちを響き合わせる」をテーマに、データを通じた他者との共鳴など経済合理性だけでは測れない価値を体験として提示することを意識したと振り返った。

alt 〈万博のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」のプロデューサーを務めた宮田氏〉

万博会場ではデジタルウォレットを活用した実証実験も行われ、来場者の行動や体験がポイントなどの形で可視化される仕組みが提供された。

宮田氏は、世の中に十分に浸透したとはまだ言えないとしつつも、「数値化しにくい価値をどう扱うか」という問いを社会に投げかけた点に意義があったと語った。

そして、万博の盛り上がりを支えた要因として、従来型のマスメディアではなく、SNSを中心とした草の根の発信があったと指摘。ネット空間にはデジタル技術や新しい取り組みに関心の高い層が一定数存在し、そうした人々の発信が注目を高め、来場者の増加につながったと述べた。

川崎氏はこの指摘を受け、万博終了後に発行が始まったJPYCについても、デジタルリテラシーの高い層を起点に広がっているのではないかと岡部氏に問いかけた。岡部氏は、万博後に名称を変更した「HashPort Wallet」との連携施策に触れながら、Xなどでの発信がJPYCの認知拡大と利用促進を大きく後押ししていると応じた。

ステーブルコインがもたらすデジタル赤字の解消

セッションは、日本のIP(知的財産)や食、観光などの価値を世界に発信する手段としてステーブルコインが果たす役割に移った。

岡部氏はステーブルコインの普及によって、これまで海外事業者などに流出していた決済手数料を抑え、日本の「デジタル赤字」を改善できる可能性があると指摘。両替や決済コストが下がることで、インバウンド客や海外のファンが日本のコンテンツをより気軽に購入できるようにもなると主張した。

alt 〈ステーブルコインがデジタル赤字解消に役立つと話した岡部氏〉

今後、国内コンテンツの購入にドル建てステーブルコインが使われるケースが増えたとしても、最終的にJPYCなど円建てのエコシステムに接続できれば、海外に流出していた価値を日本側に循環させることが可能になると説明した。

スマホ新法と金融検閲

川崎氏もまた、海外プラットフォーマーなどへの富の偏在に関して懸念を示し、自身も深く関与した「スマホ新法(スマートフォンソフトウェア競争促進法)」について解説した。

川崎氏は、モバイルアプリの市場でもAppleやGoogleといった特定のプラットフォームに流通が依存し、アプリ事業者が高額な手数料を負担せざるを得ない構造があるとし、この是正こそがクリエイターや中小事業者の成長に不可欠であると指摘。2025年12月に施行された同法の狙いを説明した。

alt 〈12月に施行されたスマホ新法の狙いを説明した川崎氏〉

comugi氏は川崎氏の説明を受けた後、銀行やクレジットカード会社が特定のコンテンツや表現活動を制限・停止する「金融検閲」の問題を取り上げ、ステーブルコインが解決の一助となる可能性を岡部氏に問いかけた。

岡部氏は前提として、作家による自主規制が進むことが問題だとしたうえで、クレジットカード会社の手数料が割高になる背景には、重層的な仲介構造や不正利用対策へのコストが上乗せされている事情があると指摘。一方、JPYCは特定の管理者が恣意的に介入しないため、クリエイターの表現や経済活動を守ることにも貢献できると説明した。

一例として、漫画投稿プラットフォーム「comilio(コミリオ)」でJPYC決済が導入された事例を挙げ、クレジットカード会社の判断に左右されないことで、クリエイターの表現の自由を確保することにもつながっていると述べた。

その一方でcomugi氏は、こうした自由度の高い仕組みが、どのように安全性と両立されているのかという点にも踏み込んだ。

岡部氏は、ステーブルコインは原則として誰でもセルフウォレットを通じて利用できる仕組みとしたうえで、反社会的勢力やテロリストによる利用を防ぐため、警察や金融庁など当局からの要請があった場合には、最終手段として特定のウォレットを凍結できる仕組みも備えていると説明。JPYC社では、AIによる監視と人的チェックを組み合わせ、不審な取引パターンを検知する体制も整えていると話した。

「モノからコトへ」を支える決済インフラ

セッションの終盤、宮田氏は、日本の産業構造が「モノからコトへ」と移行する中で、食や文化といった体験価値をいかに循環させるかが重要だと指摘。その基盤として、ステーブルコインは欠かせない存在だと訴えた。

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岡部氏は世界のステーブルコイン市場が約45兆円規模に達すると紹介したうえで、JPYCは約3億円にとどまっていると説明。このままでは「デジタルの世界で日本円がなかったことになってしまう」とし、「日本が終わらないために、ステーブルコインを使ったイノベーションを起こす時だ」と会場に呼びかけた。

|文:橋本祐樹
|写真:多田圭佑、橋本祐樹


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