2026年1月28日、Ethereum開発者コミュニティおよびEthereum Foundationは、AIエージェントのための新たな規格「ERC-8004」を、近日中にメインネットへ実装する方針を明らかにしました。MetaMaskのAI部門責任者であり、「ERC-8004」提案の共同執筆者でもあるMarco De Rossi氏によると、実装は1月29日午前9時頃(米国東部時間)になる見込みです。
ERC-8004は、AIエージェントがEthereumという特定の第三者に依存しない分散的な環境で、相互に認識し取引を行うための基盤となる規格です。今回は、この新規格が目指す「AIエージェント経済」の仕組みと、その技術的な詳細について解説します。
※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。
ERC-8004(Trustless Agents)の技術的背景
このニュースを理解するためには、まず「AIエージェント」とブロックチェーンの接点について整理する必要があります。AIエージェントとは、LLMなどのAIモデルを用いて、ユーザーの代理として自律的にタスク(情報の検索、予約、取引や購入など)を実行するソフトウェアのことです。
これまで、AIエージェント同士が連携したり、エージェントが外部のサービスを利用したりする場合、信頼できる中央集権的なプラットフォームやAPIキーによる認証が必要でした。しかし、このような仕様ではエージェントの活動範囲が特定のプラットフォーム内に限定されてしまうという課題がありました。
ERC-8004は、この課題を解決するために設計されたEthereum上の標準規格です。エージェントがブロックチェーンを利用して「身分証明(Identity)」「評判(Reputation)」「検証(Validation)」を行う仕組みを定義しており、これによって事前に信頼関係のない外部サービスやAIエージェントとも安全に連携し、取引を行うことが可能になります。
3つのコア・レジストリによる信頼の構築
ERC-8004のアーキテクチャは、「Identity Registry」「Reputation Registry」「Validation Registry」という3つのスマートコントラクトによって構成されています。これらはEthereumメインネットだけでなく、BaseやOptimism、Arbitrumといったレイヤー2ネットワーク上にも展開可能です。それぞれのスマートコントラクトの機能について、順を追って見ていきましょう。
1つ目の「Identity Registry」は、エージェントに一意の識別子を付与する機能を持ったスマートコントラクトです。技術的にはNFT(ERC-721)の拡張規格を用いており、エージェントの名称や概要、MCPやA2Aといった既存のAIエージェント向けプロトコルのエンドポイントなどといった情報を含むNFTをEthereum上に発行するものです。
このIdentity Registryを用いてNFTを発行することで、各エージェントはウォレットアドレスと紐づいた検閲耐性のあるIDを持つことができるようになります。また、エージェントは任意のエンドポイントから所定のJSONファイルを公開することで、そのエンドポイントの管理権限を証明することも可能です。
2つ目の「Reputation Registry」は、エージェントに対する評価やフィードバックを記録する機能を持ったスマートコントラクトです。ユーザー(人間や他のエージェント)は、エージェントの仕事ぶりに対して署名付きの評価スコアやタグを記録できます。このデータはオンチェーンまたはオフチェーン(IPFSなど)に保存され、エージェントの「信用」を可視化します。ユーザーは「医療診断」のような高リスクなタスクには高評価のエージェントを選び、「ピザの注文」のような低リスクなタスクには手数料の安いエージェントを選ぶといった判断が可能になります。
3つ目の「Validation Registry」は、エージェントが自身の作業内容について、その正当性の検証を依頼し、記録するためのスマートコントラクトです。様々な検証方法に対応できる汎用的な仕様となっており、ERC-8004のドキュメントでは、ステーキングを行ったバリデータによる再実行や、zkML(zero-knowledge Machine Learning:ゼロ知識機械学習)による証明、TEE(Trusted Execution Environment:高信頼実行環境)オラクルによる証明などが検証方法の例として挙げられています。このプロセスがオンチェーンで追跡可能になることで、エージェントの能力詐称リスクを軽減します。
既存のAIプロトコルとの関係は?
AIエージェント同士の通信や仕様の提示に関しては、すでに「Model Context Protocol (MCP)」や「Agent2Agent (A2A)」といったプロトコルが存在しています。これらは、エージェントがどのような機能(プロンプト、ツールなど)を持っているかを提示したり、メッセージのやり取りの形式を規定したりするものです。
しかし、これらはあくまで通信や機能提示の手順を決めたものであり、「未知のエージェントをどのように見つけ、どのように信用するか」という根本的な問題を解決していませんでした。ERC-8004は、これらの既存プロトコルと競合するのではなく、不足していた「発見」と「信頼」のレイヤーを補完するものです。MCPやA2Aで通信しつつ、その相手の身分証明や評判の証明にERC-8004を利用するという相互運用が想定されています。
考察
今回のERC-8004の実装は、AIエージェントに評価や検証履歴の保存機能を持たせるという点で、独自の価値があると考えられます。特に、ID管理にNFT技術を活用した点は、Web3ならではのアプローチといえるでしょう。
ERC-8004自体は決済プロトコルを含みませんが、信頼基盤の確立は、Ethereum上での経済活動を活性化させます。評価や検証履歴がオンチェーンに蓄積されることで、エージェントが暗号資産やステーブルコインを用いてEthereum上で決済を行う動機が生まれ、将来的に巨大なトランザクションを生み出す可能性を秘めています。
今後は、Reputation Registryに蓄積される評価データや、Validation Registryによる検証の実績が、AIエージェントの「信用スコア」として機能するようになる可能性があります。人間が履歴書や信用情報で評価されるように、AIエージェントもオンチェーン上の活動履歴によって評価され、選別される時代が到来するかもしれません。
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