予測市場は、伝統的な世論調査を上回る予測ツールとして急速に台頭している。その理由は――経済的な「確信」にある。人は自らの予測に本物の資金を賭けたとき、虚偽を語らない。
PolymarketやKalshiといったプラットフォームの台頭は、従来型予測の支配を揺るがしている。これまで世論調査が政治・経済予測で主導的な立場にあった。しかし、2016年米国選挙からブレグジットまで、世論調査の大きな失敗が続き、確信のない予測には現金で「罰」を与える新たな手法への扉を開いた。
予測市場の最大の根拠は「行動」だ。出口調査やアンケートは、周知の課題を抱えている。回答者は往々にして「尤もらしい答え」や「望む人物に勝ってほしいという願望」を選択する。本当にそう思う結果ではなくても、調査用紙上なら間違えても失うものはない。
予測市場はそのギャップを完全に排する。市場価格に反映されたあらゆる確率は、誰かが実際の資金をリスクに晒した証左となる。
この確信が、予測市場によるデータの質を根本的に異なるものとしている。単なるセンチメントではなく、「自腹を切った」データである。
この事実は数字にも裏打ちされている。データサイエンティスト、アレックス・マッカラフ氏による独立調査(Duneダッシュボード経由公開)では、Polymarketはイベント決着1か月前時点で約86%、決着直前4時間では約91%の的中率を記録。極端な確率の市場を除外し、結果へのバイアスを排した分析だ。
伝統的な世論調査は苦戦している。2016年・2020年以降の手法刷新にもかかわらず、2024年米大統領選でハリス氏の勝算を過大評価し、トランプ氏の勝機を特に激戦州で過小評価し続けた。
一方、予測市場は選挙当日より遥か前から異なるストーリーを示していた。タン氏は、この優位は偶然ではなく「スキル」が根底にあると強調する。
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構造的な違いは「速さ」にある。世論調査は実施・集計・公表に数日かかる。充実した予測市場なら、新情報にわずか数分で価格が反応する。
ただし、予測市場が万能というわけではない。批判者は重大な構造的弱点にも言及する――参加者がごく少数の同質的集団に偏る場合、大口参加者1人で市場価格が動く可能性があり、本来の集合知ではなく個人の確信が反映されてしまう構造である。
参加者層の格差も事実だ。予測市場の利用者は、暗号資産ネイティブかつ金融リテラシーの高いユーザーに偏り、幅広い一般大衆の縮図とはいえない。「群集の知恵」という持論は、対象集団が狭ければ成立しないという批判もある。
この点についてタン氏も直接認めている。
これは妥当な反論であり、調査業界はいまだ納得できる回答を提示できていない。
新しいプラットフォームは、参加者層拡大こそ鍵だと見ている。タン氏自らがソラナ基盤で立ち上げたClashPicksは、無料予測型モデルで未経験者のハードルを下げ、Polymarketに口座を持たない層の獲得を明確に狙っている。
予測市場が世論調査を完全に置き換えるかは本質的な問題ではない。すでに「会話」の前提が一変した。機関投資家や選挙戦略家、大手メディアも、従来の調査集計に加え、あるいはそれを代替して、予測市場のデータを取り入れている。
機関投資家の関心規模は無視できない。2025年10月、インターコンチネンタル取引所(ICE)がPolymarketに20億ドルを投資、企業評価額は90億ドルに達した。これは一部マニア向けの暗号資産実験ではない。金融の本流が「データ基盤」として予測市場を正面から評価し始めた明確なシグナルである。
次に試されるのは、業界がデータの価値を担保する「リスクを背負う姿勢」を損なうことなく、参加者層を広げられるかどうかである。参加者が増えれば情報の多様化が期待できるが、そのためには参加者が単なる投機家ではなく、真に情報を持つ者でなければならない。その均衡はいまだ模索中である。
現時点では、予測市場は「予想が外れれば損失を被る」構造ゆえ、人々が実際に何を信じているかを最も正直に映し出す鏡となっている。


